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浦和地方裁判所 昭和49年(行ク)1号 決定 1974年4月15日

申立人 有限会社尾崎政一商店

被申立人 埼玉県知事

主文

申立人と被申立人との間の当裁判所昭和四九年(行ウ)第三号岩石採取停止処分無効確認請求事件の本案判決の確定に至るまで、被申立人が申立人に対し昭和四九年一月三〇日付達自然第一一二六号をもつてした、昭和四七年五月九日付指令自然第一七号により認可した岩石の採取計画について岩石採取の停止を命ずる旨の処分の効力を停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

第一申立の趣旨及び理由

申立人が申立の趣旨及び理由として述べるところは別紙一ないし三記載のとおりである。

第二被申立人の意見

被申立人が右に対する意見として述べるところは別紙四ないし六記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一、申立人は資本金二〇〇万円の有限会社で、昭和四六年一一月一七日砂第四六〇号をもつて被申立人より採石法(昭和二五年法律第二九一号)第三二条の三第一項に基づく採石業者登録簿への登録を受けた採石業者であること、申立人の代表取締役である尾崎政一は昭和四二年八月一日西平施業林組合から埼玉県比企郡都幾川村大字西平以后ケ谷二五四六番山林二八一四平方メートルについての採石権を二六〇万円で、昭和四六年五月二三日宗教法人慈光寺から右同所二五四八番一山林三〇五二平方メートルについての採石権を三〇〇万円でそれぞれ買受けたこと、申立人は昭和四七年五月九日付指令自然第一七号をもつて被申立人より右各土地からの礫岩の採取につき同法第三三条の規定に基づく認可を受け(以下本件認可という)、同認可の条件に従つて同年八月八日付指令大砂第四号をもつて大椚砂防事務所長より砂防指定地内工作物設置許可を、同年七月二四日付第三〇三五号をもつて都幾川村長より普通河川敷地ならびに同地内工作物設置許可をそれぞれ受けたこと、被申立人は申立人に対し昭和四九年一月三〇日付達自然第一一二六号をもつて昭和四七年五月九日付指令自然第一七号により認可した(本件認可)岩石の採取計画について岩石採取の停止を命ずる旨の処分(以下本件処分という)をなしたことについてはいずれも当事者間に争いがなく、申立人が被申立人を被告として本件処分につき無効確認の本案訴訟を当裁判所に提起し(昭和四九年(行ウ)第三号事件)係属中であることは当裁判所に顕著な事実である。

二、そこで先ず本件処分の適否について判断する。

(一)、疎甲第一号証の一ないし三によれば、本件の処分書である達自然第一一二六号には「昭和四七年五月九日付け指令自然第一七号により認可した岩石の採取計画については、次の事項に違反しているので、採石法(昭和二五年法律第二九一号)第三三条の一二及び第三三条の一三第二項の規定により、別に通知する日まで岩石採取の停止を命ずる」と記載され、違反事項として「1、第三三条の七第一項の条件に違反していること。2、第三三条の八に違反していること。」と掲記されていたところ、被申立人は昭和四九年三月七日付達自然第一三一三号をもつて申立人に対し、達自然第一一二六号による岩石採取停止命令のうち「第三三条の一二及び」の文言を取消す旨を通知したことが認められるから、結局被申立人が採石法第三三条の七第一項の規定による認可の条件に違反したこと及び同法第三三条の八の規定に違反し認可された岩石採取計画に従わなかつたことを理由に同法第三三条の一三第二項の規定に基づいて本件処分をなしたものと認められる。

(二)、ところで、採石法第三三条の一三第二項は「都道府県知事は、第三十二条の規定に違反して採石業を行なつた者又は第三十三条若しくは第三十三条の八の規定に違反して岩石の採取を行なつた者に対し、採取跡の崩壊防止施設の設置その他岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置をとるべきことを命ずることができる。」と規定しているのであるが、岩石を採取する権利は土地の所有権ないしは設定契約により設定され又は採石法第一二条、第一九条第一項等の規定に従い通商産業局長の決定により設定される採石権に基づく私法上の権利であるから、採石法の規定中岩石の採取を制限する規定は厳格に解釈すべきであつて、みだりに拡張して解釈すべきではないと解すべきところ、同法第三三条の一二は「都道府県知事は、第三十三条の認可を受けた採石業者が次の各号の一に該当するときは、その認可を取り消し、又は六箇月以内の期間を定めてその認可に係る岩石採取場における岩石の採取の停止を命ずることができる。一、第三十三条の七第一項の条件に違反したとき。二、第三十三条の八の規定に違反したとき。三、第三十三条の九又は次条第一項の規定による命令に違反したとき。四、不正の手段により第三十三条の認可を受けたとき。」と規定しているけれども、同法第三四条の四は、都道府県知事は三三条の一二の規定による処分をしようとするときは当該処分に係る者に対し相当な期間をおいて予告した上公開による聴聞を行なわなければならない旨を規定しているのであり、また同法第三三条の一三第一項は「都道府県知事は、岩石の採取に伴う災害の防止のため緊急の必要があると認めるときは、採取計画についてその認可を受けた採取業者に対し、岩石の採取に伴う災害の防止のため必要な措置を採るべきこと又は岩石の採取を停止すべきことを命ずることができる。」と規定しているけれども、右の第三三条の一三第一項の緊急措置命令は右のとおり災害の防止のため「緊急の必要がある」場合であることを要件とするのに反し、同条第二項の措置命令はその要件を必要としないのであり、また右の第一項は緊急措置命令の内容として「災害防止のための必要な措置をとるべきこと」のほかに「岩石の採取を停止すべきこと」を併記しているのに反し、第二項は措置命令の内容として単に「採取跡の崩壊防止施設の設置その他災害の防止のため必要な措置を採るべきこと」を掲げるのみで、岩石の採取の停止を命ずることは記載していないのであるから、右の「必要な措置」とは「採取跡の崩壊防止施設の設置」その他の個別的な作為又は不作為をいうのであつて、一般的な岩石の採取の停止を含まないものであることは極めて明白である。したがつて、都道府県知事は、第三三条の規定による採取計画の認可を受けた採石業者が第三三条の七第一項の規定による認可の条件に違反し、又は第三三条の八の規定に違反し採取計画に従わなかつたからといつて、第三四条の四の規定による聴聞を行なつた上第三三条の一二の規定によつて岩石の採取の停止を命ずるのではなく、また災害防止のため緊急の必要があると認めて第三三条の一三第一項の規定によつて岩石の採取の停止を命ずるのでもなく、聴聞を行なわずまた右の緊急の必要がないのに第三三条の一三第二項の規定に基づいて一般的に岩石の採取を停止することを命ずることはできないものといわなければならない。

(三)、しかるに、被申立人は右の採石法第三三条の一三第二項の規定に基づいて申立人に対し岩石の採取の停止を命じたものであることは(一)に説示したとおりであり、しかも本件においては被申立人が聴聞を行なつたなんらの事跡もなく、また、申立人に対し発破作業の際に飛石防止網の設置を命ずる等災害防止のための個別的な作為ないし不作為の措置を命ずることは格別、一般的に岩石の採取の停止を命ずる緊急の必要があることを疎明するに足りる資料は存しないから、本件処分は重大かつ明白な違法があるものとして無効であると解するのが相当である。

三、そこで次に本件執行停止申立の必要性の有無の点について判断する。

(一)、疎甲第一一号証の一及び二、第一二、第一三号証ならびに申立人代表者尾崎政一の審尋の結果及び本件記録によれば、申立人は採石業の外に石油類及び建材類の販売を業とする従業員一四名の有限会社(昭和四一年六月一日設立登記)であり、右従業員のうち四名は石油類の販売に、五名は建材類の販売に、残る五名は本件認可にかかる採石業にそれぞれ従事していること、申立人が営む採石業は本件認可にかかる採石業のみであり、右採石業に従事する五名の従業員も右採石業のため昭和四五年から昭和四八年にかけて逐次雇傭したものであり、毎月合計約五二万円の給与を支払い、昭和四九年三月からは賃上げにより毎月合計約六四万円を支払うこととなつたこと、申立人は右採石業のため数千万円の資本を投入し、昭和四八年一〇月採石準備のため進入路の取付け作業を開始してからでもブルドーザー等の購入費と人件費だけで千数百万円の出費をなし、そのためこれまで会社内に蓄積された資金を投入した結果現在では負債はないものの資産としては銀行預金二九〇万円の外僅かな動産があるにすぎないこと、申立人は右の出費にもかかわらず昭和四七年度(昭和四七年四月から昭和四八年三月まで)の決算において同年度分の利益として一八〇万五〇一四円を計上し、右金員に前期繰越利益金二三三万四五〇四円を加算した当期未処分利益金から別途積立金および役員賞与金を差引いた二二〇万円を次期繰越利益金として処理しているが、右採石業の遂行にはなお砕石機械の購入等により多大の出費が予想されるところ、右のような資産状況から金融機関からの融資なしには採石業を遂行することは困難であり、本件処分がなされたままでは右の融資を受けられない可能性が大であることの各事実が疎明され、右各事実によれば申立人は本件処分の効力が持続するときは直ちに倒産すること必至であるとまではいえないにしても、採石業に従事する従業員に対する年間六〇〇万円を越える給与の支払及び金融機関の融資の差止等によりいずれは倒産に至る可能性が大であることは容易に予想し得るところである。

(二)、しからば、申立人は本件処分により回復困難な損害を蒙るおそれがあり、これを避けるため本件処分の効力の停止を求める緊急の必要があると認められ、一方本件処分の効力を停止しても、被申立人が新たに採石法第三三条の一三第二項の規定により申立人に対し岩石の採取事業に伴う災害の防止のため必要な個別的な措置をとることを命ずることはなんら妨げられないと解すべきであるから、本件処分の効力の停止によつて公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれはない。

(三)、なお、疎甲第三号証、第一一号証の一及び二ならびに申立人代表者尾崎政一の審尋の結果によれば、前記昭和四七年五月九日付自然第一七号による認可書(本件認可書)に添付された採石計画認可申請書には採取の期間として認可の日から二年間と記載されており、右認可の日は昭和四七年五月九日であるから、採取の期間は昭和四九年五月八日で満了することとなり、それまでには幾許の日数も残していないにもかかわらず、本件処分がなされた当時申立人は本格的な採石作業を開始するに至らず、採石場に至る進入路の開設のため爆破作業中であり、本格的採石を開始するには停止中の事業再開後なお八ケ月を要すると認められるから、採取期間の満了が切迫していることにより申立人は本件処分の執行停止を求める必要がなく、事業再開のためには被申立人に対し新たに採取計画の認可を申請する必要がありまたそれで足りるのではないかとの疑問も存するが、採石法第三三条の二第二号によれば「採取の期間」は採取計画に定めるべき事項とされ、同法第三三条の五第一項によれば第三三条の認可を受けた採石業者は都道府県知事の認可を受けて「採取計画」を変更することができる旨規定されている点から考えると、採取期間の延長を求めるには第三三条の五第一項に基づく採取計画の変更の認可を申請すれば足り新たに採取計画を定めてその認可を求める必要はないと解するのが相当であり(被申立人は採取の期間が満了し期間の延長を求める場合には、採取期間内に計画どおりの採掘ができず残存岩石を二ケ月ないし六ケ月で採掘するような場合を除いて新たな採取計画の認可を求めなければならないと主張するが、右の見解は採用できない)、また、少なくとも採取計画に定められた採取期間内に採取期間を延長する変更の申請がなされたときは、当初の採取計画の認可の効力は当初の採取期間経過後もそのまま持続し、採取期間変更の認可がなされれば再び採石事業に着手することが可能となるものと解するのが相当であり、したがつて期間を定めないでなされた本件の岩石採取停止処分の効力もそのまま継続すると解すべきであるから、採取計画に定められた採取期間の満了が切迫していることにより申立人には執行停止を求める必要がないと解することはできない。

四、よつて、申立人の本件執行停止の申立は理由があるものと認めて認容し、申立費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 今村三郎 鹿山春男 吉村俊一)

別紙一

執行停止申立書

申立の趣旨

原告有限会社尾崎政一商店、被告埼玉県知事間の御庁昭和四九年(行ウ)第三号岩石採取停止処分無効確認の判決確定に至るまで、「被申立人埼玉県知事が申立人有限会社尾崎政一商店に対し昭和四九年一月三〇日付け達自然第一一二六号をもつてした、昭和四七年五月九日付け指令自然第一七号により認可した岩石の採取計画について岩石採取の停止を命ずる旨の処分の効力を停止する。」との決定を求める。

申立の理由

一 申立人は、資本金二〇〇万円の有限会社で、昭和四六年一一月一七日埼玉県知事の登録をうけた採石業者である(甲第二号証)。

二 申立人は、昭和四七年五月九日付け指令自然第一七号をもつて埼玉県知事より同県比企郡都幾川村大字西平字以后ケ谷二五四六番地山林二八一四m2および同所二五四八番地の一山林三〇五二m2より礫岩を採取する認可をうけ(甲第三号証)、同認可の条件に従つて、同年八月八日大椚砂防事務所長の砂防指定地内工作物設置許可(甲第四号証)、同年七月二四日都幾川村長の普通河川敷地に同地内工作物設置許可(甲第五号証)をうけ、昭和四八年一〇月から採石準備のため進入路を取付ける本格的作業を開始した。

三 申立人は、本件採石準備のため申立人代表者のほか尾崎政成、関谷才一郎、野口倉造、岡野桂司、大野清を専従させ、特に関谷を現地都幾川村の借上宿舎に常駐させており、専従者五名の給与を月額合計約五二万円支払つている。

四 申立人の採石作業が遅延したのは次の理由による。

(1) 申立人代表者は、昭和四二年八月一日都幾川村大字西平の西平施業林組合より以后ケ谷二五四六番地山林二反八畝一三歩の採石権を金二六〇万円にて買受け(甲第六号証)、当時採石業は届出制であつたから、申立人より同地内の採石業を届出で昭和四三年二月二二日東京通商産業局長において同届出が受理された(甲第七号証)ので、同地内の採石ができるようになつた。

右採石権の売買にあたり、西平施業林組合の役員峰岸芳三郎は同人が組合長をしている隣接の平生産森林組合所有山林の採石権売渡を約束していたので、申立人は同地内に進入路を開設する予定であつたが、一組合員の感情的反対のため右約束は果たされなくなつた。

(2) そのため以后ケ谷二五四六番地の採石に必要な進入路の開設が不可能になつたので、申立人代表者は、埼玉県県民生活部砂利管理課長岩本李雄氏に相談した結果、同人および村長ら地元有力者の勧奨により、昭和四六年五月二三日宗教法人慈光寺より以后ケ谷二五四八番地一山林三反二五歩の採石権を金三〇〇万円で買受け(甲第八号証)、申立人は、とりあえず同地内の採石を開始して平生産森林組合から前記隣接山林の採石権を売渡してもらうのを待つことにした。

(3) 前記一組合員の感情的反対が明覚村・平村・大椚村の三村合併による都幾川村の政治的底流であつた部落間の対立感情により同村雲河原地区住民の反対に発展したため、申立人代表者は、雲河原部落民の諒解を得ることに努め概ね都幾川村民の同意を得ることになつたので、昭和四六年一二月一六日埼玉県知事に対して採石計画の認可を申請した。

(4) 前記のとおり昭和四七年五月九日申立人の採石計画は認可されたが、埼玉県環境部自然保護課砂利対策係の沢田書記より地元住民を刺激しないため二年間ぐらい機械設備の設置を見合せるようにとの指導に基き、申立人は約一年半にわたつて採石の本格的準備作業を見合せた。

五(1) 申立人は、進入路開設のため、昭和四八年一二月二七日午後二時半ごろ(発破孔の凍結除去のため予定時間より約三〇分遅れた)サイレンを吹鳴し拡声器をもつて附近の者に退避を警告して第三回目の発破作業を行なつた。

暫くして、反対派の荒井清が、発破で長男輝久(三才)が頭部を怪我したと連絡して来た。

(2)申立人代表者らが直ちに現場へ確認に行くと荒井清の妻は子供がしやがんで泣いていたから見ると頭に怪我をしていたとのみ説明し、翌日荒井清は警察官に対して、子供の手を引き発破作業地点より東南約一五〇米の地点で見ていたら石が飛んで来てコツンと当たつたが、どんな石であつたか判らないと答えた。頭部の傷害は全治一週間というが、赤チンをつけた程度のもののようであつた。

(3) 当日の作業状況から一五〇米先に飛石したとは到底考えられず何らか他の原因による傷害であろうか、申立人代表者は地元住民とくに反対派の感情を刺激しないため粘土状の風化岩が吹抜けたのであるかのように述べて陳謝に努めた。

しかし荒井清は、申立人代表者に対して示談交渉は会の代表に一任してあると云つて話合いに応じないばかりか、調停をしようとした村長に対して昭和四九年二月二〇日ごろ採石業者が撤退するまで示談に応じられない旨の手紙を送つている。

六 右荒井輝久の傷害事件を契機として一部の部落民の間に採石反対運動が再燃するかのような形となつた結果、被申立人は、傷害の原因や事案の真相を究明することなく申立人代表者の住民感情を顧慮した説明のみをもつて規定外発破作業の飛石による傷害事故であると速断し、且つ自然保護課係員の指導により採石準備作業を見合せてきたことを申立人が採石事業の意欲に欠けるかのやうに曲解して、何らの指導もしくは予告もなく突如昭和四九年一月三〇日付文書をもつて申立人に対し採石の停止を命ずる処分を行なつた(甲第一号証)

七 被申立人の右採石停止処分が、その理由を単に「1第三三条の七第一項の条件に違反していること、2第三三条の八に違反していること」とのみ記載して処分の理由となる事実を具体的に掲げないのは、実質的な理由を付さないことに帰し申立人の防禦権を奪う違法な処分であり、且つ停止期間を定めないで「別に通知する日まで採石の停止を命ずる」というのは、停止という名の下に認可を取消すと同一に帰し明らかに採石法第三三条の一二本文後段に違反するばかりか、第三三条の九・第三三条の一四・第三四条の六の趣旨に違反し自由裁量権を逸脱した全く恣意的な処分であつて、それ自体無効である。

八 申立人は、昭和四九年二月一日前記採石停止命令書の郵送をうけるや直ちに一切の作業を停止しているが、無期限停止処分により先に認可された採石期間が切れる同年五月八日までに期間延長認可の申請をなす資格をも奪われることとなつて今後もはや本件採石が不能となり、回復困難な損害を蒙ることが明らかであるから行政事件訴訟法第三八条第三項、第二五条により同処分の執行停止を求める次第である。

別紙二

上申書

第一行政処分の無効

本件行政処分は、その瑕疵が外形上客観的に強行法規に違背し、その違背が重大かつ明白であるから法律上当然無効である。

36、3、7 三小判 民集一五巻三号三八一頁

37、7、5 一小判 民集一六巻七号一四三七頁

浅賀栄著「行政訴訟実務総攬」(酒井書店)三二四頁以下

南博方編「注釈行政事件訴訟法」(有斐閣)四九頁以下

田中二郎著「行政法総論」(有斐閣)三五〇頁以下

一 手続の瑕疵

公開の聴聞または弁明の機会供与等の手続は有効要件であるから、これを欠く処分は無効である(浅賀・総攬三四〇頁田中・総論三五二頁)

採石法第三四条の四は、都道府県知事が第三三条の一二の規定による処分をしようとするときは、事前に、当該処分に係る者に対し公開の聴聞を行ない、利害関係人に対し意見を述べる機会を与えることを要件としているので、岩石採取計画認可の取消と同一視せられるべき重大な本件処分にあたつては、なおさら関係者の利益を保護し、行政処分の正当性を保障するため公開の聴聞、利害関係人の意見陳述の機会の供与等の手続を経なければならないにも拘らず、この手続を経なかつたのは重大明白な強行法規違背である。

申立人は、荒井輝久の受傷が発破作業による飛石ではなく他の原因(例えば転倒など)によるものであると確信しているが、地元反対派を鎮撫するため先ず陳謝して示談することに努力し、埼玉県自然保護課及び工業課に対しても、それぞれ担当官の報告書または始末書の提出だけでよいという指示に基き、飛石により事故が発生したかのように報告した。しかも申立人は、一月一七日ごろ現地調査に来た自然保護課係官らに対し、右事故については、警察官が翌日現場を見分の際飛石が確認できなかつたこと、荒井清ら関係者の供述が曖昧であつたと確認していることを重ねて報告するとともに警察の捜査によつて傷害事件の真相は反対派のデツチ上げであることが明確になることを確信しているけれども、ここで反対派を刺激しないために陳謝示談に努力しているのであると申達しているので、同係官らは小川警察署防犯係に右事件の捜査結果を確かめ、しかるのち第三三条の一二の規定による認可の取消もしくは停止処分を行なう必要があるならば、第三四条の四に規定するところに従つて、申立人に対し事案の内容等を予告した上、公開の聴聞を行ない、利害関係人に対しても意見陳述の機会を与えなければならない。

しかるに、便宜上と称して報告書または始末書を提出させ、形式的な現地調査を行なつただけで(仔細に調査を行なえば発破作業の状況から百四、五十米先の二十米以上も高い山の上まで石が飛んだとは認められないことが判明したであろう)、第三四条の四に規定する手続を経ることなく本件処分を行なつたことは無暴もきわまるというほかない。

二 形式・内容の瑕疵

理由を欠き内容が不明確な処分は無効である(浅賀・総攬三四四頁以下、田中・総論三五三頁)

(1) 被申立人は、本年三月七日付け達自然第一三一三号をもつて、昭和四九年一月三〇日付け達自然第一一二六号による岩石停止命令のうち「第三三条の一二及び」の文書を取消すと通知してきた(甲第一号の二、三)が、同通知により第三三条の一二が取消されることになると、自然第一一二六号により通知された採取停止命令(甲第一号の一)は採石法第三三条の一三第二項が災害防止措置を命ずる規定で、同条項によつては岩石採取の停止を命ずることができないので、形式的に不能な処分を命じたものである。

(2) また本件処分を行なうに当たつては申立人に対し相当な期間をおいて事案の内容等を予告した上で公開の聴聞を、事前に行なう手続を経なければならないが、本件処分(甲第一号の一)には取消または停止処分をすることができる法令の根拠を摘示するに止まり、処分の理由となるべき事実を全く掲げず、処分の理由を欠くものというべきである。

前記のとおり傷害事件について自然保護課係官の現地調査があつたが、申立人は同事件のため採石停止を命ずることになる旨の通知をうけたことがなく、被申立人の三月八日付け意見書三(一)(3)に記載の事由を指摘または通知されたこともない。同意見書記載の理由は、いずれも該意見書の提出により、はじめて申立人に知る機会を与えられた。

(3) 採石法第三三条の一二は六月以内の期間を定めて、認可に係る岩石採取の停止を命ずることができると規定しているに拘らず、本件処分は該条項に違反して期間を定めず「別に通知する日まで」停止を命ずるというのであつて、処分の内容が全く不明というほかはない。

第二現在の法律関係

岩石採取計画認可の取消または採石停止命令の無効については、同処分の無効により還元される法律関係は採石をなしうるという行政上の法律関係にすぎないので、行政事件訴訟法第三六条にいう現在の法律関係には当らない。

したがつて、本件行政処分の無効確認の訴えを提起することができる。

杉本良吉著「行政事件訴訟法の解説」(法曹会)一二一頁

第三回復困難な損害

回復困難な損害に該当するか否かは、申立人らに右の損害を受忍させることが社会通念上相当と認められるか否かによつて決せられるべきである。

47、5、8 札幌地裁決定 判例時報 六八六号二八頁

当然無効の行政処分については、いわば処分の不存在にひとしいので、取消訴訟の場合よりも要件を緩和して広く執行停止を認めるべきである。

南博方 「行政処分の執行停止」法教三号一四〇頁

41、6、11 和歌山地裁決定 判例時報 四五七号三四頁

一 申立人は、資本金二〇〇万円で石油製品・建築材料の販売砂利・岩石の採取等を営む従業員一四名の零細企業で、昭和四三年三月から以后ケ谷二五四六番地で採石する予定の下に(甲第七号証)準備を整えていたが、一部の部落民の反対により着手が遅れ、昭和四七年五月に至り漸く以后ケ谷二五四八番地の岩石採取計画を認可された(甲第三号証)ものの、埼玉県自然保護課係官の指導により、昭和四八年一〇月まで本格的な進入路の開設工事に取りかかれず、昭和四三年三月より現在まで本件採石場のため確保している要員五名の給与等人件費に内部留保を殆ど取り崩してしまい、昭和四七年度決算では辛うじて一八〇万円余の利益を計上している(甲第一一、一二号証)けれども、採石場要員五名の給与は月額五二万円余である(甲第一三号証)から、四八年度決算の赤字転落はいうまでもなく、現下の金融事情の下では停止処分をうけた事業に対して継ぎ融資をうけることは期待できない。一日も早く執行停止の申立が認められ、継ぎ融資をうける目途を立てなければ、申立人が倒産することは必至であり、本案判決の確定を待つことにより、申立人は回復困難な損害をうけることになる。

二 申立人が、認可をうけた岩石採取の期間は認可の日から二年間、即ち昭和四九年五月八日までである(甲第三号証)。無期限採取停止を命じた本件処分によると、申立人は、右期間内に採取期間の延長もしくは更新のため採取計画変更の認可を申請する資格を奪われることとなり、新たに採取計画の認可を申請しなければならない。しこうして、甲第三号証の認可をうけるまでに、昭和四二年から約五年の歳月を要し、更に約二年を経過した今日なお採石準備作業に因縁をつけられ、刑事事件における真相究明も待つことなく、本件処分をするに至つた被申立人の態度からは、到底新たな採取計画の認可をうけることができないので、この点においても申立人は、将来にわたり以后ケ谷地区の採石を断念することを余儀なくされ、前項記載の資金事情と相まつて回復困難な損害を受けなければならない。

いま執行停止が認められるならば、採取計画変更の認可をうける可能性も生じ金融実現の余地も残されているから、会社倒産の危機を脱することができる。

三 申立人は、昭和四八年一二月二八日より採石現場の作業を中止し、一月四日より事実上作業の停止を命ぜられ(疎甲第十一号証の二)、長期間にわたつて現場に作業員不在のため何者かに現場の石積を相当多量に庭石用などに窃取されているが、犯人不明のためこれらの損害についても、償いをうけることができない現状である。

別紙三

上申書

一 およそ行政処分を行なうにあたつては、国民の利益を保護し行政処分の公正妥当を保障するため理由を明示されなければならない。しかるに本件行政処分には全く理由を示されていなかつたのであるが、裁判所に対する被申立人の三月八日付け意見書の提出により始めて処分理由を申立人に知らされ、更に同月一八日付け補正書の提出により処分理由を追加するもののようであるけれども、右は爾後の理由づけであつて本件行政処分の瑕疵を治癒するものではない。

二 しかし、補正書により被申立人が追加しようとする処分理由を念のために検討すると、(一)の(6)及び(二)の(1)を除き、他は三月八日付け意見書記載理由の蒸返しにすぎない。

(イ) (一)の(6)は、疏乙第八号証の八によると、搬出入路が幅六メートル、平均約三〇度の勾配で造成されることになつているにも拘らず、現場は橋から八〇メートル位まで平坦になり幅一〇―一二メートルまで掘削され、既に道路造成の範囲を超えた「すかし掘り」を行い、認可した採取計画を遵守しなかつたという。

疏乙第八号証の八に示した搬出入路の幅が六メートルではなく、六ないし八メートルであることは図面を一見すれば明瞭であり、橋から発破作業を行なつた附近までは道路の両側に沈澱用マンホール(集水槽)を設けるために必要な幅員を確保しなければならないので幅一二メートル以上に及ぶことも理の当然である。

「すかし掘り」とは、疎乙第一〇号証添付の採石災害防止技術指導要領の一頁に図示されている採掘方法であるが、甲第一四号証の写真<6><8>によつて明らかなとおり、現に行なつていた発破作業は道路の床下げ工事のため行なつているのであつて「すかし掘り」をしているのではない。また道路が平坦ではなく、三〇度以上の勾配がついていることは、現地調査を行えば一目瞭然であるのに、被申立人があえて資料及び事実に反する理由を追加しようとするのは理解に苦しむ。

(ロ) (二)の(1)は、掘削方法、土石流入防止施設等の技術的事項について東松山土木事務所長及び大椚砂防事務所長の指導をうけることを認可の条件としているに拘らず、所管事務所長の指導をうけた事実がないという。

この点も所管事務所長の指導が文書で行われるものではなく、所管事務所の係官が口答で行つてきた事実を無視した三百代言的言懸りであつて、被申立人が本件行政処分の理由づけに困り如何に血迷つているかを如実に示すものである。

仮に所管事務所長の技術的指導をうけなかつたとしても、それは所論のとおり沈澱用マンホール及び水路の土砂流出防止施設を完備させるためであるから、独立した処分理由とはなし得ない。申立人が所管事務所等に着工を届出たとき係官から注意事項を具体的に指導され、その後数十回に及び現地へ出張して来た係官から工事及び作業の実施方法について指導を受けてきた事実を如何に解すべきか。

なお、大椚砂防事務所では後野川の河川敷だけが砂防指定区域であつて河川敷以外に指定区域は及んでいないと教示したが、被申立人のいう別途許可が必要であるという工事が如何なる区域場所の工事を指すか明らかでない。また疏乙第一一号証に図示する危険区域の根拠も定かでない。

三 以上のとおり、仮令、本件行政処分に被申立人が爾後指摘するような理由が示されていたとしても、それは事実に反するか、選択が許される火薬の使用や、多少の時間のずれは常識上許容される発破時間等を選択もずれも全く許されないかのように強調するだけで、実質的に合理的な処分理由となり得ないものである。

別紙四

意見書

一 申立の理由に対する意見の趣旨

本件申立を却下する。

との決定を求める。

二 申立の理由に対する意見

(一) 昭和四九年二月二六日付け執行停止申立書申立の理由中第一項は認める。

(二) 同第二項は、疎明資料甲第四号証、第五号証に係る事項及び昭和四七年五月九日付け指令自然第一七号で認可した事実は認めるが、甲第三号証については否認し本格的な作業を開始した時期については知らない。

(三) 同第三項については、知らない。

(四) 同第四項(1)は、前段は認めるが、後段については知らない。

(五) 同第四項(2)は、甲第八号証の契約書の範囲内は認めるが、他は知らない。

(六) 同第四項(3)は、都幾川村雲河原地区住民の反対があつたこと及び、昭和四六年一二月一六日、採石計画の認可申請をした事実は認めるが他は知らない。

(七) 同第四項(4)は知らない。

(八) 同第五項(1)については、申立人が、昭和四八年一二月二七日午後二時半頃発破作業を行ない、都幾川村住民、荒井清長男輝久が頭部に怪我をさせた旨、申立人の事故報告書(疎乙第一号証)により認める。

(九) 同第五項(2)及び(3)については知らない。

申立人が、火薬類取締法施行事務を所掌する埼玉県商工部工業課に、昭和四九年一月一八日付けで始末書(疎乙第二号証)を提出しており、この始末書に記載された事項は、真実であると被申立人は確信する。

(一〇) 同第六項については、昭和四九年一月三〇日付けで申立人に対し、岩石採取の停止を命ずる処分を行なつた事実は認めるが、他は否認する。

(一一) 同第七項は争う。

(一二) 同第八項は争う。

三 却下を求める理由

行政事件訴訟法第二五条によると、処分の効力を停止することができるのは、処分によって生ずる回復の困難な損害を避けるため、緊急の必要がある場合であり、かつ、その停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき又は、本案について理由がないとみえるときに該当しない場合である。

以下、申立人の主張と右の要件との関連性を明らかにし、申立人の主張が何ら理由のないことを述べる。

(一) 処分によつて生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある場合

(1) 申立人は申立の理由第七項で「被申立人の採石停止処分は、実質的な理由を付さないことに帰し、申立人の防禦権を奪う違法な処分」であり、又「停止期間を定めないのは、停止という名の下に認可を取消すと同一に帰し、採石法第三三条の一二本文後段に違反する」とし、更に「第三三条の九、第三三条の一四、第三四条の六の趣旨に違反し、自由裁量権を逸脱した全く恣意的な処分」と主張する。

(2) ところで、採石法は、採石業という土地構成物である岩石を土地から分離するという特殊な作業形態から生ずる災害を防止するため、一定の制限を課したものである。

そのため、長期的な観点にたつて策定された事業の基本的計画である採取計画の遵守義務を課し、これに抵触するときは認可の取消し、又は事業停止の処分を行なうこと、また緊急事態が発生した場合の措置命令等制裁監督規定が設けられているわけである。

これらの規定は、法が法の目的を達成するために、その自律性、専門技術性を観点として与えたもので、採石業者の違法行為に対し、制裁的処分を発動するかどうか、制裁処分のうち、いずれの処分を選ぶかを決定することは、その決定が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会通念上著しく妥当を欠き、行政庁に任された裁量権の範囲を越えるものと認められる場合を除き、行政庁の裁量に任されているというべきである。

(3) 申立人は、「処分の理由となる事項を具体的に掲げない」と主張するが、「1第三三条の七第一項の条件に違反していること、2第三三条の八に違反していること」の理由は、先に数度にわたる細目についての指摘とあわせて、十分な具体性を持つものであるといえる。

なお、停止処分の理由である「第三三条の八に違反している」事項の主なものを例示すると

<1> 発破時間は午前十時から午後二時までとされているが、事故発生時は午後二時三〇分頃実施した。

<2> 飛石防止網を設置するとされているが、設置されていない。

<3> 火薬類の使用は、黒色火薬を主とし、搬出入路の開設にはSLBを使用するとされているが、三回の発破には、ダイナマイトを使用している。

<4> 進入路側に溝を掘り、雨水用集水槽を二個設けるとされているが、設けられていない。

<5> 俊野川及び水路側に練玉石積を設けるとされているが、設けられていない。

等である。

(4) また、「停止期間を定めないのは、認可を取消すと同一に帰し、採石法第三三条の一二本文後段に違反する」と主張する。採石法は第三三条の一二及び第三三条の一三の規定において、違法行為に対して岩石採取の停止をすることができる旨規定し、停止期間については、第三三条の一二において「六箇月以内の期間を定めて」と規定し、停止期間の最高を六箇月とし、その範囲内においては行政庁の裁量に任ねているわけである。第三三条の一三においては、停止の期間は定められていないが、第三三条の一二の規定の趣旨から判断して、当然六箇月以内と解するのが適当である。従つて、停止期間が定めていない場合は、当然六箇月の範囲内の停止処分と解することとなり申立人の主張は、一方的な速断であり、何ら違法な処分とは言えない。

(5) 特に本件については、発破事故以来都幾川村長と申立人が交わした「以后ケ谷採石に関する要望に対する回答書(疎乙第三号証)及び「以后ケ谷採石に関する契約公正証書」(疎乙第四号証)が何ら遵守されないため、発生した事故として村役場当局及び地元住民の間に不安感が蔓延し、この地元の不安感を解消することが、申立人の採石業者としての、まずなすべき社会的責務であるといえる。また、申立人の努力により、すみやかに地元の理解を得るならば、停止命令はただちに解除すべく被申立人は考慮し、期間を明示しなかつたのもその理由の一つであるといえる。

(6) 申立人は「第三三条の九、第三三条の一四、第三四条の六の趣旨に違反する」と主張するが、第三三条の九については、災害の事前防止を目的とした予防的措置命令であり、本件については既に災害が発生し、又、法に違反している事実による制裁処分であり、制裁処分のうちのいずれを選ぶかを決定するのは、前述のごとく行政庁の裁量行為であり、第三三条の一四については、本件処分に関係なく、また第三四条の六については、個々の業者に対する監督官庁の義務を規定したものでなく、採石業者全体に対する監督官庁の行政的姿勢、すなわちプログラム的規定ということができる。

(7) なお、申立人は、採取計画の認可をうける際、知事及び都幾川村長あてに提出された確約書(疎乙第五、六号証)において、「万が一住民の福祉に反する事態を招来したときは県の指示を待つまでもなく事業を停止してその対策を講ずる」と確約しており、既に停止処分に対する訴えの利益を放棄したものと言わざるを得ないものである。

(8) 申立人は、申立の理由中第八項で「無期限停止処分により先に認可された採石期間が切れる同年五月八日までに期間延長認可の申請をなす資格を奪われ、今後もはや本件採石が不能となり、回復困難な損害を蒙ることが明らかである」と主張する。採石法上の岩石採取計画の認可申請をなす資格は、第三三条の規定から、第三二条の採石業者の登録を受けた地位を指すことは当然であり、被申立人の備えた昭和四九年三月七日現在の採石業者登録簿(疎乙第七号証)にも登載されており、認可申請をなす資格は、依然と存在するものであり「採石が不能」かどうかは、別途第三三条の四の規定により認否の判断を行なうもので、申立人の主張は、論拠のないものとなり、何ら回復困難な損害を蒙るおそれはなく、又、執行停止を求めるほどの緊急の必要性はないものと言える。

(二) 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき又は、本案について理由がないとみえるときに該当しない場合

(1) 採取停止処分は、前述のごとく、採石法がその法目的を達成するために、その自律性専門技術性の観点から与えられた自由裁量行為に属するものであり、この制裁的処分が否定されることは、採石業者の違法行為を是認することとなり、公共の福祉の維持に重大な影響をもたらすこととなる。

(2) 本案について検討するに、本案は本件申立書と全く同一の理由を掲げているが、被申立人が今までに述べたことからも採取停止処分は適法であり、本案について理由がないとみえるときに該当するといえる。

別紙五

補正書

一 二項中(二)の「甲第三号証については否認し」を削除する。

なお、附言すると、甲第三号証の表書(以下「指令書」という。)中に「別記の条件を付けて申請のとおり認可する。」の文言は、付された条件によつて採取計画認可申請書及びその添付書類の一部は補正されたが、それ以外は、採取計画認可申請書及びその添付書類のとおり認可したという意味である。

従つて、事務処理上、たまたま、指令書に採取計画認可申請書の写し及び主要な図面のみを添付して認可したが、指令書に採取計画認可申請書の写し及びその添付書類を添付した場合と添付しない場合とでは効力に何ら差異はないものであり、指令書に添付しなかつた他の書類も当然認可した内容に含まれるものであり、又、採石法第三三条の八の遵守義務の規定が適用されるので、念のため申し述べるものである。(疎乙第八号証、第八号証の一~一四)

二 三項中(一)の(3)に係る停止処分の理由は、次のとおりである。

(一) 「第三三条の八に違反している」事項

(1) 採取計画認可申請書(以下「疎乙第八号証」という。)中「5岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設等」の「(3)発破を行なう場合の危険防止の方法及び施設」欄においては「発破は、午前十時~午後二時の間に実施する」とされ、又、同添付書類である「事業計画に伴う注意事項」(疎乙第八号証の一一)中「3発破実施」の「C」においても「発破の実施は午前十時から午後二時までの間に実施する」とされているが、発破事故の発生した昭和四八年一二月二七日には、午後二時三〇分頃実施し、認可した採取計画が遵守されなかつた。(疎乙第一号証、二号証)

(2) 「疎乙第八号証」の「5」の「(5)破砕、選別に伴う騒音、粉じん、飛石防止の方法及び施設」欄において、「飛石の危険のある箇所には、防護網を設置する」とされ、又、同添付書類である「事業計画に伴う注意事項」(疎乙第八号証の一一)中「3発破実施」の「A」においても「作業の進転に応じて適宜の場所に防護網を張る」とされているが、飛石防止網は、設置されておらず、認可した採取計画が遵守されなかつた。

(3) 「疎乙第八号証」の添付書類の「架設及び掘削工程表」(疎乙第八号証の九)において「<注>3搬出入路施設は表土が厚いので、岩盤は出ないものと思われるが時として出た時は、SBL(誤記SLBが正しい)にて破砕する」とされ、又、「疎乙第八号証」の添付書類の「事業計画に伴う注意事項」(疎乙第八号証の一一)中「3発破実施」の「A」においても「火薬類の使用に当つては、成可く少量を使用し、黒色火薬を多く使用して石を割るのではなく、石にひびを入れてブルドーザで採石する如くつとめて飛石のなきよう安全を期し………」とされているが、申立人が当該採取場において、今までに実施した三回のの発破は、すべて新桐ダイナマイトを使用し、(疎乙第九号証)認可した採取計画は、遵守されなかつた。

(4) 「疎乙第八号証」の「5」の「(4)採取場における雨水排水の処理方法及び施設」欄において「雨水の直接水路への流入を防止するため、現存岩石をそのまま残存し、一時に多量の雨水の流入防止に努める。進入路側に溝を掘り最終地点にマンホール2個を設け土砂を沈澱して上水を流す」とされ、又、「疎乙第八号証」の添付書類の「搬出入路平面図」(疎乙第八号証の八)においても、同様に集水桝を二カ所設けることが図示されているが、これが設けられておらず、認可した採取計画は遵守されなかつた。

(5) 「疎乙第八号証」の添付書類の「搬出入路平面図」(疎乙第八号証の八)において、後野川及び水路に練玉石積による土砂流出防止施設を設けることが図示されているが、水路の土砂流出防止施設については、何も設けられておらず、後野川については「搬出入路平面図」どおりでないが、一応設けられている。しかし、石積が不完全であるため、土砂等が流出し、今後も土砂等が流出するおそれがあり、その本来の効用を果すまでに至つておらず、認可した採取計画は遵守されなかつた。

(6) 「疎乙第八号証」の添付書類の「搬出入路横断図及び縦断図」(疎乙第八号証の八)によると、搬出入路は、幅六メートルで平均約三〇度のこう配により造成されることになつているが、採取場の現状はコンクリート橋から約八〇メートル位まで平坦になり、幅は約一〇~一二メートル位まで掘削されており、既に、道路造成の範囲を超えたすかし掘りによる実質的な採掘が始まつている状態であり、図面どおりの作業が行われておらず、認可した採取計画は遵守されなかつた。

(二) 「第三三条の七に違反している」事項

(1) 指令書別記条件(以下「疎乙第一〇号証」という。)の「3」において「土石等の後野川への流入防止施設等を設置すること。なお、掘削方法、土石の流入防止施設等の技術的事項については、東松山土木事務所長及び大椚砂防事務所長の指導をうけること」とされている。

これは、申立人の採取計画及びその添付書類中において行なうこととされている前記(一)の(4)及び(5)を特に条件により再担保したものであるが、前述のごとく沈澱用マンホール及び水路の土砂流入防止施設は、設けられておらず、又、後野川の土砂流入防止施設は不完全な状態であり、この条件が遵守されなかつたといえる。

又、条件のなお書については、前述の土砂流入防止施設工事を行なう場合、官民境界を明確にすると共に、砂防法の砂防指定区域内の工事について、別途許可が必要であるが、これらの事項について、所管の事務所長の指導を受けることを包括的に条件として附したものであるが、これらの指導を受けた事実がない。

(2) 「疎乙第一〇号証」の「5」において、「昭和四七年二月八日付け都幾川村長あて提出された確約書の各事項を必ず遵守するとともに、特にダンプ公害の防止には万全を期すること」とされている。

これは、都幾川村長あての確約書(疎乙第六号証)中の3において、「発破時間は午前一〇時から午後二時までの間とする」とされているが、昭和四八年一二月二七日には、午後二時三〇分頃実施し、事故を発生させており、この条件を遵守しなかつたものである。

(3) 「第一〇号証」「8」において『作業の実施にあたつては、別添「採石(砕石)災害防止技術指導要領(昭和四六年一〇月通商産業省鉱山石炭局編)」に従うこと』とされており、「同要領」中「II災害防止方法」の「2発破について」は「(1)危険区域内に公共施設または建物があるときは、飛石防止網の設置等の措置を講ずること。」とし、更に「(3)発破の施行は、なるべく一定時刻に行なうこと。」とされている。

疎明資料乙第一一号証のとおり採取場周辺の危険区域内には、道路(県道)及び人家が約一〇軒あるにもかかわらず、飛石防止網を設置せず、又、発破の実施した時間も、一回目一三時一〇分、二回目一二時二〇分、三回目一四時三〇分と不規則である。

発破音は、突然大きな音が振動を伴つて起るため、衝撃音として感じるので附近住民等に与える影響を配慮して、一定時刻の発破実施が必要であることを示しており、これらが守られないのは、採石業者として災害防止に対する配慮を欠く、措置と言える。

別紙六

補正書

第一総論

一 採石業は、土地の構成物である岩石を土地から分離するという特殊な作業形態であるため、その性格上、相当長期間にわたり、その実施地区の各方面に、特に生活上騒音、粉じん、飛石、交通公害等の種々の影響を与えるもので、いわゆる環境権の侵害に至る場合が多い。従つて、その実施にあたつては、地区住民の積極的な協力又は同意、若しくは理解を得て、環境権の侵害に至らぬよう努力を尽くすことは、事業を行う者の社会的責務である。

これを無視して、地区住民の協力等を得ずに事業の実施を図つても、事業の健全な発達を望むことはできないと言わざるを得ない。

二 ところが、申立人が都幾川村で採石事業を実施するにあたつて、地元村役場当局及び地区住民に強い反対があつたことは、周知の事実であり、(疎乙第一二号証)このため、申立人が地元の理解を得るため、四ケ年の永きにわたり努力をなし、又、被申立人も採石事業の国民経済上における重要性をかんがみ、両者の間にあつて調整を図り、認可を行つたものである。このような経過を考えるに、申立人が事業の実施にあたつて法を遵守すべきことは勿論であるが、更に被申立人及び地元都幾川村長あてに提出した確約書(疎乙第五、六号証)及び地元都幾川村長と締結した「公害防止協定」(契約公正証書)(疎乙第四号証)を信義をもつて誠実にこれを遵守すべきことは、論を待つまでもないことである。

三 しかるに、申立人は、初心を忘れ認可を受けた採取計画を遵守せず、更に「確約書」「公害防止協定(契約公正証書)」を遵守せず反故にし、あまつさえ「発破事故はデツチ上げである。」「飛石防止網は経験上大丈夫である。」等は、採石業者として、全く無責任な考え方と言わざるを得ない。すべてが「経験上大丈夫である」と、この世を経験主義により処理されるならば、法律の存在は無意味なものとなつてしまうだろう。

四 もし、本件採取停止命令の執行停止が認められるとするならば、他の採石業者全体に法を軽んずる風潮が蔓延し、遵法精神は欠如され、違法な採石場が出現することとなり、これにより災害等が発生し、地域住民が災害を被ることとなることは必至となり、公共の福祉の維持に重大な影響をもたらすこととなる。

また、被申立人としても、今後採石業者が信義誠実をもつて「採取計画認可申請書」「確約書」等を提出しても、これを遵守するかどうか猜疑することとなり、相互信頼を基礎とした行政指導は為し得ないものと言わざるを得ない。

第二昭和四九年三月一八日付け上申書

一 第一の一項中「自然保護課及び工業課に対しても、それぞれ担当官の報告書又は始末書の提出だけでよいという指示に基き、飛石により事故が発生したかのように報告した。」と主張するが、被申立人は、前記のような指示をしたことはなく、申立人の事故があつた旨の報告により始めて了知したものである。

二 同中、「(仔細に調査を行えば発破作業の状況から百四、五十米先の二十米以上も高い山の上まで石が飛んだとは認められないことが判明したであろう。)」と主張するが、昭和四七年四月三日付け四七鉱局第二六七号通商産業省鉱山石炭局長通達に基づく、「採石技術指導基準書(昭和四七年版)「(疎乙第一三号証)の九九頁の「5の(1)のり」の「採取場の周辺三百米以内における土地の利用状況及び公共施設、建物の状況」において三百米を災害の予想される範囲内としているのは、この区域内が発破による破砕岩石が飛ぶ危険区域だからである。従つて、飛石は、三百米先の範囲に及ぶ場合があり得るものであり、申立人の主張は、発破理論の常識を無視したものと言わざるを得ない。

三 二項中(1)において「自然第一一二六号により通知された採取停止命令は採石法第三三条の一三第二項が災害防止措置を命ずる規定で、同条項によつては岩石採取の停止を命ずることができないので、形式的に不能な処分を命じたものである」と主張する。

採石法第三三条の一三第二項の命令は、採石法の最も基本をなす条項違反者である「採石業者の登録を受けないで採石業を行つた者」、「採取計画の認可を受けないで採取を行つた者」、「採取計画に従わないで採取を行つた採石業者」に対して災害の未然防止の見地から、違反の事実があれば、直に発動することができるものであり、文言上第一項のように「岩石の採取を停止すべきことを命ずることができる」旨の規定はないが、これは、法律違反者は直に岩石の採取行為を停止すべきことは、当然すぎるからであり、更に、これに上乗せ規制として災害防止のために必要な措置を加重し得る法律規定となつているものである。従つて、何ら不能な処分とは言えない。

四 同(2)において「傷害事件について自然保護課係官の現地調査があつたが、申立人は同事件のため採石停止を命ずることになる旨の通知をうけたことがなく、被申立人の三月八日付け意見書三(一)(三)に記載の事由を指摘または通知されたこともない。」と主張する。

岩石採取の停止命令は、行政庁の裁量行為であり、法律違反の事実があれば、直に発動できるものであり、何ら法律違反者にいちいち通知を行う必要はないものであるが、申立人の代表取締役尾崎政一氏に対して、昭和四九年一月一七日に自然保護課課長補佐杉田盛一郎が、後日文書により岩石採取の停止命令を発動する旨、口頭で告知済である。また、自然保護課主事沢田俊之は、昭和四八年一二月一二日(水曜日)に東松山土木事務所砂利対策課長稲葉長次ともども現地調査を行つた際、申立人従業員関谷才一郎に対し、「採石場内汚濁水が水路を経て、後野川に流出し、汚濁されていたが、これは認可した採取計画中の沈澱用マンホールが未だ出きてないことによる」「水路及び後野川に練玉石積が出きてないこと」「石積が不完全であるため、廃土、廃石の一部が後野川に流出していること」を指摘しているものであり、更に、昭和四九年一月一六日(水曜日)自然保護課砂利対策係長篠田光男、同主事沢田俊之、東松山土木事務所砂利対策課長稲葉長次が現地調査の際、申立人が代表取締役尾崎政一氏に対し「前記昭和四八年一二月一二日の指摘事項」を再度指摘し、「飛石防止網が設置してないこと。」「黒色火薬を使用してないこと。」「発破時間が認可した採取計画、確約書どおりでないこと」等の認可した採取計画どおりでないことを指摘している。

五 同中(3)については、昭和四九年三月八日付け意見書中三項(一)(4)において述べたとおりであるが、更に言及するならば、本件岩石採取停止命令は採石法第三三条の一三第二項の規定による処分であり、同条項には停止の期間は定められていないが、第三三条の一二の規定の趣旨から判断して、当然六箇月以内と解されるものであり、停止処分に定めがない場合は、当然六箇月の範囲内の停止処分と解することとなり、又、停止処分の基礎となる認可採取計画の認可の期間が満了すれば、当然停止処分も消滅することは言うまでもない。

六 第三の一項において申立人は「申立人が倒産することは必至であり、本案判決の確定を待つことにより、申立人は回復困難な損害を受けることになる」と主張する。

申立人の事業内容は、従業員一四名の内五名が採石事業に従事しており、その割合からみて、又、「ガソリン販売のほか砂利並に採石の採取販売を行っている」(疎甲第一一号証上申書中の一)との記載からも、事業の主体はガソリン販売であることがうかがえる。従つて、兼業である採石事業が停止せられても、直に倒産するとは思われず、申立人の疎明資料(甲第一一号証~一三号証)からも、そのことは推認できないと言える。更に現在の採石場の状態から、直に骨材となり得る岩石は採取できず結局盛土、埋め立て用にしか使用できないものであり、又、認可を受けた採取計画(疎乙第八号証)及び確約書のとおり、一日八トン車六台、一一トン車六台の計一二台の搬出しかできないものであるから、このまま本件停止処分を続行しても回復困難な損害を受けるものとは言えない。

七 同二項において、申立人は「……右期間内に採取期間の延長もしくは更新のため採取計画変更の認可を申請する資格を奪われることとなり、新たに採取計画の認可を申請しなければならない。…………刑事事件における真相究明も待つことなく、本件処分にするに至つた被申立人の態度からは、到底新たな採取計画の認可を受けることができないので………回復困難な損害を受けなければならない。」と主張する。

(一) 採石法第三三条の五(変更の認可等)において第三三条の認可事項については、すべて変更認可事項としているため、文言上、採取の期間の更新も変更の認可事項と解されやすいが、変更に該当するか否かは、申請事項によつて決定されるのではなく、その内容の程度によつて判断されなければならないものである。そして、この判断は、行政庁の裁量行為(運用)によるものである。

すなわち、変更認可申請にはその性格上、総合的に従来の計画を抜本的に修正するような場合、あるいは、採石場の区域が拡張される場合、採取上の区域は従前と同じであるが、事業実施の態様が変更される場合、また従前の認可期間を満了し更に二箇年の採取の期間の更新を行う場合についてまでも含まれるものではない。このことは、既に全国的な取り扱いとして運用されているものである。採取の期間の更新を変更の認可事項として取扱われるのは、認可された採取期間内に、当初の計画どおり採掘できず、残存岩石が発生した場合、その残存岩石が二~六箇月で採掘できるような場合である。

従つて、申立人が採取期間の更新を行う場合は、第三三条の規定による採取計画認可申請書を提出することになるものである。又、申立人は、疎乙第七号証のとおり、採取業者として被申立人の備えた採石業者登録簿に登載されており、第三三条の認可申請を為す資格は依然として存在し、本件採取停止処分とかかわりなく、採取計画認可申請書を提出することができるものである。

(二) 仮に採取期間の更新が変更認可事項とした場合であつても、採取計画の変更の認可を申請する資格は、第三三条の認可を受けた採石業者の地位であるから、何ら変更認可申請をなす資格を奪つたことにはならない。

(三) 本件採取停止命令は、発破事故を契機とした採石法第三三条の八の採取計画遵守義務違反に対する行政処分である、従つて、何ら刑事事件の結果に拘束されるものではない。

(四) 以上のとおり申立人の主張は論拠のないものとなり、何ら回復困難な損害をうけるとは言えない。

第三昭和四九年三月二二日付け上申書

一 一項において、「被申立人の三月八日付け意見書の提出により始めて処分理由を申請人に知らされ、更に同月一八日付け補正書の提出により処分理由を追加するもののようであるが」と主張するが、前段は前記第二の四のとおりであり、後段は昭和四九年三月八日付け意見書中三項(3)について、裁判所から補正命令に基づき、補正したものである。

二 二項の(イ)については、疎乙第八号証の八(疎甲第三号証の添付図面三)の平面図及び横断図によると沈澱用マンホールを設ける位置は、コンクリート橋から五メートルの地点であり、この地点については沈澱用マンホールを設ける関係から一〇メートルは必要であると思われる。しかし、それ以外については、この図面から、申立人の主張を裏づけるものは見い出せない。また「すかし掘り」は、いわゆる地並払いを行つて上部の岩石を崩落させる方法をいうもので、疎乙第一〇号証の「採石(砕石)災害防止技術指導要領」一頁の図示のとおりである。

申立人の採取計画によると、疎乙第八号証の八のとおりまず搬出入路を六メートル幅で約三〇度の勾配をもつて、海抜一六〇メートルの位置まで造成し、以後は、疎乙第八号証の七のとおり番号順に採掘することとなる。

その場合、疎甲第一四号証の<4>の写真中央正面の採掘部分を何と説明するのか、この部分を採掘することは、採取計画の添付図面からは見い出せず、既に道路造成の範囲を越えた「すかし掘り」による採掘であると主張せざるを得ない。

三 (ロ)において「疎乙第一一号証に図示する危険区域の根拠も定かでない」と主張するが前記第二の二及び採石業務管理者講習会資料」(技術編、昭和四七年一一月通商産業省鉱山石炭局監修)一四頁において、「発破を行うときの事前措置は、飛石の予想される三〇〇~四〇〇メートルの範囲について危険区域を予め設定しておき……」とされている。

四 三項において「選択が許される火薬の使用や、多少の時間のずれは常識上許容される発破時間等を選択もずれも全く許されないかのように強調するだけ」と主張する。

(一) 火薬類取締法に基づく火薬類消費許可においては、その許可の範囲内で選択が認められていることは認める。しかしながら、申立人は、採石法に基づく認可を受けた採取計画の添付書類において、道路造成については、SLBを使用し、採掘にあたつては、黒色火薬を主として使用することとしている。申立人の主張のように、現在の作業は道路造成のための床下げであるとすると、SLBを使用することとなり、採取計画は遵守されなかつたわけである。しからば、遵守できないことをなぜ採取計画認可申請書及び添付書類に記載したのかと反問したい。

(二) 作業上、当然多少の時間のずれが生ずる場合があることは、被申立人も認める。しかし、必要なことは、その場合の採石業者として取るべき措置である。

発破時間が指定されている場合、採取場周辺の住民は、その時間内に発破を行うことを期待しており、その時間内に発破が行われない時は、それ以後は生活上の諸活動の行動を開始し屋外に出ることとなり、発破による飛石の危険性が生じてくるものである。

従つて、指定時間内に発破ができない時は、危険区域内の周辺人家等に連絡を行うなどの安全確保のための措置を行うべきことは当然であり、このような発破作業上の常識的な措置もせず、論外というべきである。

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